今日はBS・NHKの『フロンティア』という番組で興味深い話を
やっていたので、概要をお知らせしたいと思います。
五十年程前から天才と呼ばれる人達五百人以上を研究した
米国のダロルド・トレファー博士によると、特別な才能を持つ人の
約半数が自閉症の人だったそうで、博士はこの人達が生まれながらに
持っている才能のことを『サヴァン(博学)症候群』と名付けました。
才能の種類としては❶記憶 ➋芸術(音楽・美術) ❸数学
❹空間認知 ❺カレンダー記憶などですが、
フランスのダニエル・タメットは円周率22514桁を記憶し、数名の
数学者や科学者の立ち合いのもと約5時間かけて暗唱を証明した
だけでなく、世界で一番難しいアイスランド語を1週間の滞在中に
覚えて、生放送のテレビ番組に出演し自在に会話したのです。
彼によると数字には色と質感と形があり、まるで詩を覚えるように
暗唱しているそうで常人とは感覚がまるで違う世界観ですが、
自分が何故このように記憶できるのか? 判らないそうです。
英国の少年アレックスは空間認知で、見た風景をカメラのように
記憶できリアルで緻密な絵を再現するのですが、実際に初めて
見る新宿のビル群を五分間見てから緻密に再現させましたが、
この少年も何故できるのか? 判らないと述べていました。
また全米注目の盲目のピアニストのレックス・ルイスは四歳頃から
ピアノを始めたのですが、その頃から一度聞いた曲は簡単に
弾ける才能を持っており、ショパンの『幻想即興曲』は四十分で
弾けるようになったそうで、現在弾ける曲数は自分で判らないほど
と述べ、実際に日本から持ち込んだ二分ほどの新曲を聞いてから
すぐに弾いてみせましたが、何故できるか? 判らないそうです。
博士の研究によると生まれながらではなく脳の損傷や病気による
天才が10%ほどおり、この人達を『獲得性サヴァン』と名付けて
いますが、共通しているのは左脳の前頭部を損傷した人達でした。
通信会社の営業マンだったデレク・アマートは誤って浅いプールに
飛び込み、五日後に目覚めたときから四角形の白と黒が
目の前に流れるようになり、指先で膝を叩いて何か押せるものを
捜していることに気付き、弾いたこともないのにピアノが弾けた
だけでなくピアノで作曲ができるようになり、四角形の黒が短調で
四角形の白は長調のシャープな音に感じ音符になるそうで、
現在はプロのピアニストであり作曲家として活躍していても、
やはり何故できるのか? は謎で知りたいと願っているそうです。
数学ではジェイソン・パジェットはある日路上で頭に暴行を受け、
翌朝目覚めたときは全てのものが変わって見えて混乱したそうです。
不思議に思い絵にしてみると自然界に多い『フラクタル構造』で、
これは巻貝のように同じ形が集まってできている構造のことですが、
これを偶然見た物理学者が『あなたの絵は数学的な理論や
概念を説明している』と言われたので、大学に入り直して数学の
勉強を始め今は自分だけに見えるフラクタルの視点で全てのものを
数式であらわせるようになり、世界の数学者に注目されています。
一般的に左脳は言語と論理を司っており、右脳は創造的な芸術や
視覚と聴覚の記憶を司っているのですが、生まれながらの
サヴァンの人達の脳をMRI画像で見ると、普通の人と違い左脳より
右脳の堆積が1.9%大きく右脳の血流が活発なことが判っています。
『獲得性サヴァン』の人達の共通点は左脳の前頭部に損傷を
受けている人達で、普通は脳の損傷が様々な機能低下に繋がるの
ですが、中には左脳の損傷による機能・血流の低下によって
右脳が活性化され『獲得性サヴァン』を生んでいると思われています。
日本でも脳梗塞で左脳前頭部を損傷した人が、写実性と具象性に
優れた絵を描くようになりMRI画像で調べてみると、芸術と
空間認知を司る右脳後頭部の血流が活発になっていたそうです。
一般的に普通は左脳が優位のために右脳を抑制していると
思われていますが、左脳の損傷によってその抑制が弱まることで、
右脳に眠っていた隠されていた才能が開花したと推測されています。
このような最新科学の解明を受けて、人工的に右脳の開発を
しようという研究が進み、左脳には機能を抑制する電流を流し、
右脳に機能を活性化する電流を流すtDCS(経頭蓋直流電気刺激)
が開発され、現在米国ではインターネットで購入できるそうです。
ヘルメットにしてこの装置を装着すると、危険物の発見率が二倍に
なるので軍事的な利用を考えたり、帽子でかぶれば成績を上げる
だけでなく高齢者の能力・機能回復に利用できたりするそうです。
これまでの理論が正しいと思える反対例としてナディア・チョミンを
最後に上げると、彼女は重度の学習障害を抱えて言語を話せず
どんな指示にも反応できなかったのですが、四歳で写実性と
具象性に優れた絵を描くことができ将来を期待されていました。
しかし言語能力の開発のために自閉症特別学校に通い、
発達心理学の学者による言語教育を受け話せるようになりましたが、
言語を獲得した十歳頃から絵の才能が消失し始めて、
二十歳の頃には普通の四歳児の絵になってしまいました。
日本でも会話はできても言葉の意味が理解できない、
『意味性認知症』の人達の一部に写実的な絵の才能が
開花した人がおりますが、この人達は空間認知能力が優れており、
二十代若者の倍の速さでパソコン画面の点の数を当てますが、
これも言語機能が視覚的な能力を抑え付けている証になります。
言語の発達で普通の人は物に名前を付けて記憶するのですが、
意味性認知症の人は意味が理解できないので、カメラのように
記憶するために空間認知機能が上昇し写実性が開花するのです。
三万年前の暗い洞窟に描かれた牛や馬の写実的な絵なども
記憶しないと描けないもので、この頃の人類の言語能力が未熟
だった故に視覚記憶能力が高かったからできたと推論されています。
最新科学の結論としては、言語と論理を司る左脳と視覚や創造力を
司る右脳とのせめぎ合いが人間の脳内ではいつも行われており、
右脳より左脳の方が優位に働くようになった理由は、日常生活に
おいては言語と論理の方が必要でかつ重要だからと思われます。
言語コミュニケーションによる物事の分析や、過去を振り返って
未来を予測するなどを全て言語を使用し行ってきたことを思うと、
言語こそ人類の繁栄に繋がっており、個人の視覚的な記憶力や
特別な才能より言語の方が全体にとって価値があるという結論です。
全ての物事に当て嵌まるのですが、『何かを失うと何かを得ており、
何かを得ると何かを失っている』ようにできているのですが、
左脳優位の人が多い中で社会生活が円滑に運ばれて、
少数の右脳優位の天才によって文化や文明の発展に寄与し、
それらが社会全体に還元されて豊かな社会になってきたのです。
サヴァンと呼ばれる人達が『自分にだけどうしてできるのか?』
という懐疑と不安を抱えて生きている様子が画面から伝わってきて、
天才には天才の悩みや苦しみがあると思いました。
番組の最後に先端科学者が述べたことですが、右脳には
創造性や天才的な才能が全ての人の脳の中に眠っており、
やがてテクノロジーの進化で将来は確実に目覚めさせることが
できると言っていましたが、ひねくれ者の私はその代わりに失うものを
考え恐れ、非凡さを開花させずに凡人で過ごす人生の選択を
した方が幸せなのではないか? と怪しんでいます。
それは全ての動物や植物は環境に順応して進化してきており、
必要なものをより進化させ、不要なものを退化させて生き延びてきた
ように、左脳が右脳を抑制していることにはもっと重要な意味があり、
きっと『眠ったままの選択』の方が生き残りに有利に働き、
もしかしたらむしろ幸福な人生に繋がっているのではないか?
と邪推するのは、凡人の自分を肯定したい気持ちもあるからです。
理由もなくできたり判ったりするのではなく、努力してできたり
努力の末に判ったりすることに意味があり充実感の伴う喜びが
生まれると思うからです。
株取引で財を成しプール付きの高級住宅に住み、一日三時間だけ
パソコン画面で株取引をして月に600万円位稼ぐ人の言葉ですが、
『働いて生きているという実感がなく、子供達が成人したら私を
どう思うのだろう?』と述べ、時折自己懐疑に陥ると言っていました。
人間は額に汗するような過程を経て、それが結果に繋がったとき
真の精神的な充足感を持てるからで、自分のやっていることが
努力の過程を経た労働なのだろうか? と懐疑的になるように、
天才達も自分だけがなぜできるのか? に懐疑的になるのです。
人間とは相対評価の思考で他者より劣る劣等感や、他者より勝る
優越感で一喜一憂するのですが、どちらも持続すると孤立に繋がる
不純な感情で、生きている喜びの実感とは他者との共感で、
『他者との思いの共有』が多い人ほどきっと幸せな人生だと思います。
私はパソコンもスマホも潜在的な機能の5%も活用していないと思う
のですが、身体も潜在的なものは右脳だけでなく未活用が多く、
追い求めたのは五感の快楽と、努力して楽しいと感じる物事なので、
以上に述べた天才情報は好奇心を満たす知る喜びではありましたが、
私自身は天才に感謝し敬意を表しても羨ましいとは思いません。
ましてや自分の右脳に眠っている能力を目覚めさせるなど、
多少の興味はあっても望まないのは思うに任せず翻弄されながら
実感の伴う努力で手に入れるのが人生の醍醐味ではないか?
と思うからです。