悪い感情と良い感情の正体とは。

私が成長し生活する中で一番苦しんだものが親子・兄弟関係で、

特に父を中心にした家族としての有り方の中で味わった

歪んだ息苦しさでした。 

ほとんどの家庭において父とは一種の支配者ですが、

この支配者を中心にした家族の絆の形は支配者の人間性によって

様々な形の膨らみや歪みを生んでいると思います。 

母親が毒親化することも父親が緩衝材になれば防げますが、

父親の母親への支配や無関心なども作用しており、

依存し合っている相互の微妙な力や愛憎関係によっても

変幻自在に変化するのが家庭です。 

子供は生まれながらに子供として存在させられますが、実は

親も訓練や経験もなく突然親になるので、ほとんどの親が手探りで

戸惑いながらの試行錯誤を強いられ親になっていることが、

親子関係においての傷を生むことにも繋がっています。 

卵で生む亀のように生みっぱなしの動物もおりますし、

授乳が済み子供が餌を取れるようになると親は次の繁殖のために

子離れするのが動物ですが、人間の子供だけは長い依存期間を

必要として生まれますので、両親の濃密な文化に曝されて育つ

ために一種の文化的な洗脳状態が長く続き、他の家との

文化的な明確な違いに気付くのは思春期頃だと思います。 

この長い濃密な親子・夫婦関係の中で脳が異常に発達した

ことが文化や文明だけでなく人間の心にも複雑な感情を

生むことが人生における煩悩に繋がっています。

現代の子供による家庭内暴力や親による虐待や妻への

パワハラなどの問題が起こる背景に潜むのがこの複雑な感情で、

それは誰の心にも起こっている羨みや妬みや僻みであり、

この三つから発展して沸き起こるものが他者を憎むという

他の動物には恐らくない恨みという自らも苦しめる感情です。 

人間とは他者に自分を認められたいという承認欲求を持って

生まれてきていますので、承認が満たされない状況の人達には

様々な負の感情が沸き起こってきます。 

他の兄弟と比較したり他の家庭と比較したりすることで起こる

最初は軽い羨みや嫉妬の感情ですが、その感情を抱え続けると

次第に肥大し妬み僻みから恨みへと発展するのです。 

しかしこのような感情は自分と同じなのにという身近な存在に

対して起こり易く、遠く離れた存在に対しては羨みのような

軽い感情で済んでしまいすぐ忘れてしまいます。 

兄弟とか同学年とかのような類似性がある時に起こり易い事と、

もうひとつは『俺・私にだって』という自分にも獲得できる可能性が

あったという気持ちを持つと嫉妬心が起こります。 

殺人事件は年々減少しているのですが政府統計を見ると、

親族間の殺人事件だけは増加しており、二〇十六年の統計では

全体の五十五%にも及ぶのも身近過ぎるためです。 

これほど危険な感情である嫉妬という字には女偏が

ついていますが、私は男の方が嫉妬深いと思っていて

何故女偏なのか? に疑問を持っています。

例として不倫が発覚した時には妻より夫の嫉妬の方が強いですし、

会社組織における男同士の嫉妬による制裁は激烈だからで、

最新の脳科学研究では男の方が格段に妬みや嫉妬が強い

という結果が出ております。 

親族間では息子が父親より収入を得るような立場になると

父親は羨みから始まり次第に嫉妬し、やがて

『このようになるように育てたのは俺だ』と思い込み、

親という権威をチラつかせながら毒親的な陰湿な介入や

真綿で首を絞めるように親孝行を迫る行為を始める人が

有名人の親などには沢山おります。 

毒親関連本などでは母親が多く登場しますが、

その心理的背景には娘が自分(母親)より能力が有ったり

幸せな状況などへの嫉妬が心の隅に巣食っていたりしますが、

毒親の人達に共通しているのは自分達夫婦間の不和

子供への嫉妬や依存への引き金になっている人が多くおります。 

虐待なども同様で本人達は無自覚に『あなたのため』という

鎧を着て反撃の隙を与えない巧妙さを装うのですが、

そのことに無自覚だから尚更始末が悪いのです。 

このような状況から逃れることが難しい原因は、子供は最初から

両親の子供である事実から逃れられない事と、もうひとつは

東洋的な社会通念である親孝行への社会的圧力があるために、

たとえ親であっても子供には別な人格があると主張するような

ことをしたら、自分がエゴイスティックな人間と社会から非難される

ことを日本人は無意識に恐れているのです。

しかし自己肯定感がある子供が不条理な親の拘束や洗脳から

逃れられるのは、親の生き方と自分の生き方を別個なものとして

捉えることができるからです。 

では自己肯定感を持てない子供はどのように育てられるか? 

ですが、『お前は駄目だ!』というような子供を否定し

矯正しようという言葉を日頃から多く使う親に育てられると、

まるで洗脳されたように『自分は駄目な人間なんだ』と思うように

なってしまい自己否定的な思考に陥ることが原因です。

私もこのように育てられましたが、中学生頃から心の中で

父からの離脱を企み続け二十歳で成就し東京へ就職しました。

東京で妻と出会い結婚してからの私は、仕事への自信だけでなく

妻からの様々な承認という自己肯定感を授かったからと

今は理解できますが、何事にも内向的で自信も持てなかった

私の性格が、離脱と出会いによって百八十度変化した

自分の人生を振り返って思います。 

親元にいる間は躾という名目の矯正を恐れ、幼児期から常に

内的な葛藤を抱えていたので内向的で暗い性格でした。

『躾』とはに付けたものがしいと書くように、

どんな子供でもある程度の矯正は必要ですが、

子供のためではなく親の都合のための強制や矯正

躾などではなく人格否定に繋がっているので、その子供は

たとえどんなに成功しても自己肯定感を持てず苦しみます。

これは親の未成熟による対処方法の間違いによるもので、

精神的な余裕と言葉を選び話しかける見識もないからです。

間違いや失敗した時に『お前は駄目だ!』ではなく

『また失敗から学べたね!』というような言葉をかけられたら

子供は失敗や間違いを肯定的に捉えられるようになります。 

この自己肯定感こそが誰にでもある僻みや妬みや嫉妬を弱め、

人間を苦しめる際限のない猜疑心を持たない人間性の獲得

にも繋がりますので、これこそが豊かな人間関係の構築と維持に

繋げられる人生の最大の財産になると私は思っています。

妬みと嫉妬は似ていますが微妙に違い、妬みは下位の者が

上位の者を引きずり下ろしたいと願うネガティブな感情で、

嫉妬の方は自分の存在を脅かすような相手に対して

先手を打って攻撃したいというよりポジティブな感情です。 

六本木ヒルズに蜘蛛の巨大な彫刻オブジェがあるのですが、

そのタイトル『ママン』はフランス語でお母さんという意味です。 

作者は女性の彫刻家で女性蔑視の父に育てられた屈辱の

妬みや僻みをダイレクトに作品に表現したものが多いのですが、

そんな子供時代に父から守ってくれなかった母を表現している

推測されています。 

このようにマイナスな感情を芸術作品として昇華している人は多く、

大阪万博会場にある太陽の塔の作者岡本太郎も

両親の複雑な相姦関係の中で育った屈折が作品への

エネルギーになっていますが、大きな負の感情を抱え続けた人の

方が正のエネルギに転換すると爆発力があるように思います。 

人間に備わったこのような一見すると嫌な負の感情も、実は

このような芸術作品に昇華されるように人類が生き残るために

必要で意味があるから備わっているのだと私は思います。 

それは人間は個人としては弱い動物だから、家族から

共同体を形成し知恵を出し協力し合うことで強者として繁栄

 してきた中で、協力し分け合う共同体への奉仕的労働は

子孫繁栄のために必須なのですが、その義務と責任を放棄したり

最小限に止めて果実のみ貪った人間が必ずいたと思います。 

家族や社会のように人間が集団化する中で、このような人達に

対しての嫌な負の感情を持つことが、秩序を守るために

罰を与える法を作ることに繋がり、そこからリーダーが生まれ

階級が生まれ監視する警察のような組織が生まれたのも、

根源にあるのはこのような負の感情を出発点にして

集団の秩序作りに繋げたのではないか? と想像します。 

集団化・社会化は階級化による相対評価も生みますので

僻みや妬みが強まり、やがて遺伝子に組み込まれ人間に

備わったのだと思いますが、この感情は芸術だけでなく学問や

文明や文化へと昇華する力としても発揮されたと思います。 

社会化の進行で競争が激化することで僻み妬みの感情は

増幅され遺伝子に強く組み込まれましたが、僻み・妬みも

昇華のような正の側面もあり、不安のような嫌な感情も危険を

回避するために備わっている生き残り戦略に必要なものです。

良い感情である共感や喜びは脳にドーパミンという快楽物質が

出るので感じるのですが、これも食事をすると快楽物質

ドーパミンが出るのは生存のためで、性行為で感じる

ドーパミン快楽と興奮物質アドレナリンは子孫を残すため

欠かせないから遺伝子に組み込まれているのだと思います。 

ちなみに痛みは身体の異常を知らせるためで、モルヒネや

麻薬などは人工的にドーパミンを操作して痛みを抑え

快楽を強めている植物由来の成分です。 

学問やスポーツなどでも夢中になっている時にはドーパミンが

大量に出ていますが、悪い事だけでなく良い事でも過度な状態に

なると依存症を引き起こすように、負の感情も正の感情も

バランスが崩れると必ず心や身体に実害を引き起こします。

  このバランス制御を行っているのが知性を司る前頭葉ですが、

  思春期頃に様々な欲求行動に歯止めが効かないのは

  制御を司る前頭葉が未発達だからで、本能の脳である

   脳幹から湧き起こる 食欲・性欲・新奇好奇心欲が活発過ぎて

  制御不能に陥っているためです。

  最新科学で判明した結果では制御し冷静な判断ができる

  前頭葉の成熟時期は三十歳頃だと判ったそうです。

  悪い感情の抑制や快楽に溺れない制御などは人間関係にも

  影響しますので、 伴侶を選ぶ結婚や親になる時期などにも

  参考になるかも? 果たして自分の前頭葉は成熟しているか?

  自分自身を俯瞰して見るメタ認知が幸せへのパスポートを

  手に入れるための必要条件で、幸せな結婚生活の継続は

  双方がメタ認知能力を持つことが十分条件ではないか? 

  と思いますが、メタ認知は知識ではなく知恵に比例しています。

  悪い感情は秩序を創り維持するために使い、良い感情は

  子孫を創り様々な人との絆を維持するため使うという

  人間の生存戦略に必須のものですが、どちらもその有効性の

  鍵を握っているのは制御する前頭葉の成熟度のようです。