共同幻想論。

吉本隆明氏の『共同幻想論』を読んで、結婚生活四十年を迎えた今だから実感出来た事が多々有りました。

長い共同生活の中で妻と私お互いの個人としての考え(個人幻想)と、夫婦お互いの二人の立場を共有できる気持ちの対幻想がないと破綻するということです。 

それは社会生活にも存在するルールを共同幻想として持っているので、社会が機能しているのと同じです。

善悪や常識の時代の変化も、全てその時代の人達にとって実は幻想と捉えていて納得です。 

家族・親子・兄弟間の葛藤も私の経験と照らし合わせて納得でき、戦後最大の思想家と呼ばれる所以でした。 

その中の夫婦についての私なりの理解は、お互いが『相手の意識の中に、自分への配慮をいつも確認できる』日常生活を営むことが対幻想の共有に繋がり、このような意識をお互いが持つことが本当の夫婦になる為の基本と思います。 

人は無意識に相手の為に果たしている自分の行為を最優先して考えて発言します。 

特に咄嗟の時に、相手への配慮を忘れがちで無意識に『自分の為に相手がある』発言や行為をしています。 

長い共同生活を通して、お互いが『相手の為の自分を』無意識に実践できるようになる事が対幻想の獲得に繋がると思います。 

若い頃の私は経済的役割を果たすことが家族や妻への愛情と思い、結果的に支配や命令に近い行為に繋がっていたのではないか? と今は思います。  

でも妻が求めていたものは金銭的・物質的な豊かさではなく、妻への配慮と感謝を通して『一人の女性として必要とされている』日常だった事に気が付くのに二十年位かかったと思います。 

人類の起源から男女・親子・兄弟・姉妹・社会・国家を考察した本ですが、物・金の豊かな高度化社会になるほど翻弄されて対幻想の獲得が難しくなる逆説を実感します。