男は苗木。

十年程前から月二回の定休日は母を連れ妻と三人で季節を楽しみながらのドライブと少し贅沢な昼・夕食に温泉コースで過ごし続けています。

その間十時間程の会話が、九十一歳になる母の心の便秘治療になりますが後部座席の女房は母の幼少期からの人生模様を聞き続けるうち、慈愛の気持ちで見守ってくれるようになりました。

支笏湖経由で北湯沢の温泉に向かう時、父との結婚生活の苦労話が出たので、母に妻としての三通りの生き方が有ると話しました。

結婚当初の男は苗木みたいなもので、その苗木を立派な成木に育てるのが妻の役目として自覚している人は少ないと思う。 

子育ても同じですが、ガミガミ言って焚きつける人は苗木を焼いて燃やしてしまうタイプ、甘やかして根腐れするほど水を与え過ぎるタイプ(髪結いの亭主)、普段は見守っているだけで自由にさせて困って枯れそうな時にだけ優しく少量の水を与えるタイプ・・母性を持つ女性と違い、男が男らしくなる為には、育った時の環境と結婚してからの環境の中で後天的に身に付けて行くことが必要不可欠なのだと! 話し、

結婚してある程度経過した女性は、誰でも自分の胸に聞いてみれば判ると思うと言ってから、支笏湖と森の対照景色が綺麗だよと話をそらしました。  

じーっと考えていたのでしょう、しばらくして母が『私は根腐れさせたほうだな』と自虐的に言いました。

父と母は昔でしたので、お互いの親同士が勝手に結婚を決めたことや、この十年間に母しか知らない様々な経緯を知っていましたし、物心ついた時から朝から夜まで母が働いて四人の子供を育てたようなものなので『父さんは育った時も甘やかされて男として根腐れしていたんだ』と言いました。

恋愛でも見合いでもない、自分の選択と決断なしで嫁いだのだから『母さんは宝くじにはずれたようなもの、でも俺を生んでくれた事に感謝している、あの親父がいないと俺は生まれてない』と言うと嬉しそうに頷いていました。 

こんな会話を通して、母の人生の総決算に付き合っています。